科学はコワくない

  • 『カール・セーガン 科学と悪霊を語る』カール・セーガン(新潮社・2300円)546g
  • 『ハインズ博士「超科学」をきる』テレンズ・ハインズ(化学同人・2800円)522g
    『ハインズ博士「超科学」をきる パート2』
  • 『ニュースの裏には「科学」がいっぱい』中野不二男(文藝春秋・1333円)312g

これらの本を読んで、「え? わたしが信じていたあのハナシは、疑似科学から生まれた本当にただのおハナシでしかなかったの?」とショックを受ける方もおられるかもしれませんが――実はミヤベもそうでした――科学技術の研究開発が細分化してきて、素人にはますます先端のことがわからなくなってくるこれからの時代、「又聞きのハナシを鵜呑みにしない」「情報と知識とは違うと心得る」「耳新しく驚くような情報を得たときには、その出所はどこなのかと考えてみる」などの基本的な姿勢を身につけることは、自分の身を守るためにも大切なことだと思います。『科学と悪霊を語る』は、セーガン博士の事実上の遺作となった著書です。惑星科学者であると同時に、ジョディ・フォスター主演で映画になった『コンタクト』などの壮大なフィクションを生み出した作家でもあり、核兵器使用が引き起こす「核の冬」についていち早く警鐘を鳴らした博士が、二十一世紀を目前にまだ六十二歳の若さで亡くなってしまったことは、わたしたちにとって大きな損失でありました。『ニュースの裏には――』の中野さんの著書は他にもお薦めしたいものが多く、未読の方はこの本を入口にいろいろ読んでほしいです。

さてフィクションを一冊。

  • 『ブレイン・ヴァレー』(上下)瀬名秀明(角川書店・上下 各1400円)560g

さらに、この小説のなかで書かれている事柄についてもっと深く知りたいというときには、こちらのガイドブック。

  • 『「神」に迫るサイエンス』澤口俊之・佐倉 統・金沢 創・山田 整・志水一夫・瀬名秀明(角川書店・1300円)251g

もうひとつ、直接「科学」に関する本ではありませんが、皆さんのまわりで、本当に世紀末の大災厄や「一九九九年七の月」を怖がっている方がいたら、この本をお薦めします。

  • 『トンデモ ノストラダムス本の世界』山本 弘(洋泉社・1400円)381g

この本の冒頭で著者の山本さんが書いておられることだけでも、ぜひ読んでほしいです。

宗教について考えるときに…

  • 『弥勒(みろく)』 篠田節子(講談社・2100円)616g
  • 『仏典のことば 現代に呼びかける智慧』 中村 元(岩波書店・1200円)198g
  • 『江戸の小さな神々』宮田 登(青土社・2200円)378g
  • 『悪魔のダンス 絵の中から誘う悪魔』
    『マリアのウィンク 聖書の名シーン集』
    『天使のひきだし 美術館に住む天使たち』
    『オレたちに明日はない? 黙示録の解読ガイド』(視覚デザイン研究所・1750円)350g
    以上、視覚デザイン研究所編

『弥勒』は徹夜一気読みの面白い小説ですが、読後深く「救済」ということについて考えさせられます。視覚デザイン研究所編の四冊は、いずれもカラーイラスト入りの楽しいガイドブック。それにしても、『オレたちに――』の出版タイミングは絶妙!

映画『オーメン』で登場した666〝獣の数字〟を皮切りに、近頃ではテレビゲームのなかにまで『私はアルファでありオメガであり、 最初いやさきであり 最後いやはてである』なんて一節が出てくるほどにまで普及した「ヨハネの黙示録」でありますが、反面、ちゃんと通して読んでる人がはたして何人いるの? というのが現状ですから。『江戸の小さな神々』は、民族学の本なのですが、身近におわす小さな神様について考えるときに読んでいただきたい本なので挙げました。

記憶や心の問題のこと

  • 『記憶を消す子供たち』レノア・テア(草思社・2233円)482g
  • 『記憶は嘘をつく』ジョン・コートル(講談社・1800円)426g
  • 『記憶を書きかえる 多重人格と心のメカニズム』イアン・ハッキング(早川書房・2300円)486g
  • 『嫉妬の時代』岸田 秀(青土社・2136円)369g
  • 『平気でうそをつく人たち』M・スコット・ペック(草思社・2200円)461g
  • 『病気志願者「死ぬほど」病気になりたがる人たち』マーク・D・フェルドマン/チャールズ・V・フォード(原書房・1800円)449g

この項はいろいろな種類の本が入ってます。『記憶は消す―』と『記憶は嘘を―』は、実は真っ向から対立する内容のもの。気軽に両側から読み比べることができるのが素人の楽しさ。『嫉妬の時代』の著者岸田秀さんの著作は、他にもたくさんあります。全部お薦めです。

キレイになるとかならないとか

  • 『エステマニア』横森理香(幻冬舎・1359円)348g
  • 『FACE フェイス』大鶴義丹(新潮社・1650円)412g
  • 『魂まで奪われた少女たち 女子体操とフィギュアスケートの真実』ジョーン・ライアン(時事通信社・2200円)404g

『エステマニア』と『FACE』はフィクション。女性作家と男性作家、それぞれの視点から描かれた「女が美しくなるということ」。重なるところもありかけ離れたところもあり、すごく面白いので、ぜひ続けて二作読んでほしいです。『魂まで―』はスポーツものですが、「美」ということを限界まで要求される種目にまつわる痛ましいルポで、他人事として見過ごしにできない部分が多々あります。

来るべき電子メディア社会、コンピュータ社会に

  • 『本が死ぬところ暴力が生まれる』バリー・サンダース(新曜社・2850円)441g
  • 『インターネットはからっぽの洞窟』クリフォード・ストール(草思社・2200円)538g
  • 『ハイテク過食症 インターネット・エイジの奇妙な生態』ディヴィッド・シェンク(早川書房・2200円)442g
  • 『事故はこうして始まった! ヒューマン・エラーの恐怖』スティーブン・ケイシ―(化学同人・2200円)393g

最初にお断りしておきますが、ミヤベは反電子メディアを掲げているわけでもなければ反インターネット論者でもありません。ただ、技術が進んで新しいシステムが出てくれば、そのために否応なしに欠けてゆくものや削ぎ落されてゆくものがあるわけで、それがすごく大事なものだったりすると怖いということと、どんな優れた新しいシステムでも、それさえあれば万事OK! と考えてしまうのは危険だと思っているだけであります。それに、電子メディアの素晴らしい点を挙げた書籍についてならば、ミヤベよりもっとずっと詳しい方々の手になる良質なガイドが出ていますからね。ここは敢えて、ブレーキ方向の書籍を挙げてみたという次第。なお、『事故はこうして―』はちょっと毛色の違う本ですが、良くも悪くもシステムを使うのは人間で、最後は人間の力が事を起こすという点で、ここに含めてみました。

歴史は面白い

  • 『昭和史の謎を追う』秦 郁彦(文藝春秋・上2000円/下1942円)548g
  • 『現代史の争点』秦 郁彦(文藝春秋・1619円)414g
  • 『歴史探偵団がゆく 日本史が楽しい』半藤一利 編著(文藝春秋・1942円)451g
  • 『日本の一番長い日』半藤一利(文藝春秋・1553円)447g
  • 『闇の男 野坂参三の百年』小林峻一・加藤 昭(文藝春秋・1533円)379g
  • 『沈黙のファイル』共同通信社社会部編(共同通信社・1553円)500g
  • 『徳川慶喜家の子ども部屋』榊原喜佐子(草思社・1800円)371g
  • 『はじめは駄馬のごとく』永井路子(文春文庫・388円)124g
  • 『武将列伝』全六巻 海音寺潮五郎 第一巻136g
  • 『悪人列伝』全四巻 海音寺潮五郎 第一巻159g

クレアの別注だからというわけじゃないけど、文藝春秋の本でいっぱいになってしまいました。ともあれ、新世紀がやってくるからといっても、人間の本質はそんなに変わるものじゃなし、歴史に学ぶことはたくさんあります。その考え方を「事件」という側面に絞るならば、

  • 『近世事件史年表』明田鉄男(雄山社・5631円)635g

この本もお薦め。

江戸時代にも、今と似たような事件が起こってたんだなとわかります。『武将列伝』『悪人列伝』は、通して読んでおくと、NHKの大河ドラマがより楽しくなりますよ。しかし、こうやってリストを作るとミヤベが幕末ものを全然読んでないのがバレてしまいますね。ベンキョウします……。

  • 『ローマ人の物語』塩野七生(新潮社1巻・2300円/2巻・2800円/3巻・2300円/4巻・3100円/5巻・3200円/6巻・2700円/7巻・3400円)第一巻491g
    第1巻「ローマは一日にして成らず」
    第2巻「ハンニバル戦記」
    第3巻「勝者の混迷」
    第4巻「ユリウス・カエサル ルビコン以前」
    第5巻「ユリウス・カエサル ルビコン以降」
    第6巻「パクス・ロマーナ」
    第7巻「悪名高き皇帝たち」

イタリア旅行するなら、読んでから行こう!

歴史は面白いけど難しい

  • 『「日本は降伏していない」』太田恒夫(文藝春秋・1456円)344g
  • 『人はなぜ歴史を偽造するのか』長山靖生(新潮社・1500円)352g

歴史的事実を「情報」としてとらえるとき、「物語」としてとらえるとき、ある特定の「信念」や「国策」の裏付けとして使おうというとき、非常に危険な落とし穴がパックリと口を開き、思わぬ悲劇が招来される―ということを取り上げた書籍たちです。『「日本は降伏していない」』は、太平洋戦争終結当時の、ブラジル日系人社会のいわゆる「カチ組」と「マケ組」の抗争について書かれたもので、ちょっと場所と立場を置き換えれば、実はこういうことは(スケールの大小はあれ)現在でも起こっているんじゃないかと空恐ろしく、もの悲しいルポです。若い世代にはあまり広く知られていない出来事なので、なおさら必読。

人間は「おはなし」をつくる動物である

  • 『消えるヒッチハイカー 都市の想像力のアメリカ』(新宿書房・2500円)488g
    『ドーベルマンに何があったの? アメリカの「新しい」都市伝説』
    『メキシコから来たペット アメリカの「都市伝説」コレクション』
    『くそっ! なんてこった「エイズの世界へようこそ」はアメリカから来た都市伝説』
    『赤ちゃん列車が行く 最新モードの都市伝説』
    ジャン・ハロルド・ブルンヴァン

あなたがご存知のあの「おはなし」も、わたしの知ってるあの「おはなし」も「友達の友達から聞いたんだけどね―」「友達の友達がひどい目にあってさ―」などなど、特有の語り出しで始まるうわさ話は、実は「都市伝説」という現代社会が生んだ新しい形の口承伝説なのだということを、豊富な実例を挙げながら面白楽しく講義してくれる、アメリカの民俗学者ブルンヴァン先生のシリーズ。人間の想像力の向くところは洋の東西を問わないらしく、「消えるヒッチハイカー」という都市伝説は、我が国のタクシー運転手さんのあいだで有名な「青山墓地まで」というおはなしとほとんどソックリ。定価がちょっと高くて重たい本ですが、買ってゼッタイ損はありません!

  • 『ピアスの白い糸 日本の現代伝説』池田香代子/大島広志/高津美保子/常光 徹/渡辺節子(白水社・1553円)350g
    『走るお婆さん 日本の現代伝説』池田香代子ほか 編著
    『魔女の伝言板 日本の現代伝説』近藤雅樹ほか 編著

こちらは都市伝説コレクションの日本版。ブルンヴァン先生の集めたおはなしと、似ているのもあり、日本独特っぽいものもあり、読み比べるのもまた一興。あなたが知っている「おはなし」は、さて、このなかにいくつあるでしょうか。

戦争と犯罪、暴力と殺し合い

  • 『司令官たち 湾岸戦争突入にいたる〝決断〟のプロセス』ボブ・ウッドワード(文藝春秋・1942円)625g
  • 『目に見えない傷痕 お父さん、戦争のとき何をしたの?』ザビーネ・ライヒェル(晶文社・2816円)461g
  • 『心臓を貫かれて』マイケル・ギルモア(文藝春秋・2816円)651g
  • 『冷血』トルーマン・カポーティ(新潮文庫・781円)287g

『司令官たち』と『目に見えない傷痕』を続けて読むと、戦争というものをマクロで見るのとミクロで見るのとでは様相が全然違ってしまうということに気づいて愕然とします。前者は湾岸戦争、後者は第二次世界大戦という時を隔ててもなお、という感じがします。それこそが、戦争の残酷な所業である所以なのですが。

ワタシたちみんな遺伝子の 乗り物ヴィークル

  • リチャード・ドーキンス博士の本
    『利己的な遺伝子』
    『延長された表現型』
    『ブラインド・ウォッチメイカー』上下(早川書房・上下各1845円)400g

ドーキンス博士の進化論についての本は、浮き世の憂さを忘れたいときに読むのに最適です。特に『ブラインド・ウォッチメイカー』は、下手な小説よりもスリリングでイメージがふくらんでストーリー性が豊かで面白い! 時間がないという方は、せめて『ブラインド―』だけでもどうぞ。順番に通して読まないとわからないということはありませんのでご安心を。

ミステリーが好きで、
たくさん読みたい、
または自分でも書いてみたい
という貴女に

リストのトリには、やっぱりミステリー関係のものを持ってきました。ただ、ちょっと趣向を変えて、自分でも創作してみたい、プロのミステリー作家(またはミステリー系作家かな)になりたいという方にお薦めできる書籍も、ということで――

  • 『現代ミステリー・スタンダード』FUSOSHAミステリー編集部編(扶桑社・1429円)329g
  • 『ホラー小説大全 ドラキュラからキングまで』風間賢二(角川書店・1600円)305g
  • 『推理日記』パート1からパート5まで 佐野洋(講談社文庫パート5・980円)224g

一読すれば海外・国内の現代ミステリーの今日に至る流れがわかりますし、読んでおきたい傑作・代表作も一目瞭然。さらに『推理日記』は、推理小説の基本中の基本である「視点の設置の仕方」と「フェアかアンフェアか」という問題について、実作を豊富に例にとりながら繰り返し書かれていますので、まさに教科書として読むこともできます。取り上げられている個々の作品については、著者と違う意見を抱くこともあるでしょう。でも、それでいいのです。読んで、そこから自分で考えるということを教えてくれるのが、本物の教科書なのですから。なお、ここでは文庫版を挙げましたが、『推理日記』はハードカバーでは同じ講談社からパート6、7、8が出ていますし、現在も「小説推理」誌上で連載が続けられています。

  • 『謎のギャラリー』北村薫(一九九九年一月現在アンソロジーの「特別室」「特別室Ⅱ」とあわせて全三冊 マガジンハウス・各1400円)354g
  • 『日本探偵小説全集』全十二巻(創元推理文庫・1巻-11巻各1200円12巻1019円)第十一巻382g

『日本探偵小説全集』は文庫版なので、全集といえども場所はとりません。が、時間的に全巻は無理だという方は、十一巻と十二巻の名作集だけでも手に取ってみてください。北村さんの『謎のギャラリー』は、既刊の三冊を読んでしまっても、まだ続巻が出るぞという楽しみがあります。

それでは皆様、今後もどうぞミステリーをよろしくお願いいたしますと
結んで、おあとがよろしいようで。